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横浜地方裁判所 平成7年(ワ)2104号 判決 1997年5月26日

原告

小山光雄

右訴訟代理人弁護士

岸哲

被告

有限会社中央興産

右代表者代表取締役

熊田誠

右訴訟代理人弁護士

村田英幸

被告

大同商事有限会社

右代表者代表取締役

伊藤雄一

被告

淺場誠

被告

小田智

右三名訴訟代理人弁護士

田中隆三

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告有限会社中央興産は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成三年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告大同商事有限会社、被告淺場誠及び被告小田智に対する予備的請求並びに被告有限会社中央興産に対するその余の予備的請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告有限会社中央興産との間においては、原告に生じた費用の六〇分の五九と同被告に生じた費用の六〇分の五九を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告大同商事有限会社、被告淺場誠及び被告小田智との間においては、全部原告の負担とする。

五  この判決は、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

被告らは原告に対し、連帯して金二九四九万四七一五円及び内金二九三二万四九一五円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告らは原告に対し、連帯して金一五〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件の要旨

本件は、原告は、買主側の不動産仲介業者である被告有限会社中央興産(以下「被告中央興産」という。)及び売主側の仲介業者である被告大同商事有限会社(以下「被告大同商事」という。)の仲介のもと、被告淺場誠、同小田智及び訴外大野美津子(旧姓石渡)三名から同人ら共有の別紙物件目録記載の建物(マンションであるコンブロンビル四〇二号室、以下「本件物件」という。)を代金二七五〇万円で買い受けたところ、被告らは本件物件には建築基準法上の耐火構造物の要件を満たさない違法建築部分があることを知りながら、これを秘して、右事情を知らない原告に本件物件を買い受けさせたものであり、したがって、本件売買契約は、原告の錯誤により無効であり、そうでないとしての被告らの欺罔行為により締結されたものであるから詐欺により取り消し、さらに、被告らの右行為は原告に対する共同不法行為であるから、原告は被告らに対し、主位的請求として、本件売買契約の無効、取消による不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権に基づき、既払の本件売買代金の返還ないし同額の損害賠償と本件売買契約に伴い支出した諸費用等の損害賠償を求め(遅延損害金の起算日は、右諸費用の最終支出日以降の日である)、予備的に、本件売買契約が有効であることを前提として、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件売買代金ないし売却予定価格と前記違法建築部分を除去した場合の現在の売買価格との差額及び右除去費用の合計相当額の損害賠償を求め(遅延損害金の起算日は、本件不法行為発生日であるところの本件売買契約締結日である)、争われた事案である。

二  争いのない事実等

1  原告は、平成三年一一月一七日、被告淺場誠(以下「被告誠」という。)、被告小田智(以下「被告智」という。)及び両名の母親である大野美津子(旧姓淺場、石渡、以下「石渡」という。)の三名(右三名を合わせて、以下「売主ら」ともいう。)との間で、右被告ら三名共有の本件物件を代金二七五〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し(以下「本件売買契約」という。)、本件物件を買い受けた。

2  被告中央興産及び被告大同商事は、いずれも不動産売買の仲介等を業とする会社であるところ、本件物件の売買に関して、被告中央興産は原告と、被告大同商事は売主らと、それぞれ不動産媒介契約を締結し、右被告両名は、本件売買契約締結について媒介した。

3  原告は、売主らに対し、平成三年一二月一三日までに前記売買代金全額を支払い、また、被告中央興産に対し、同年一一月一七日に四五万五七七〇円、同年一二月一四日に四五万五七七〇円の合計九一万一五四〇円の仲介手数料を支払った。

4  本件物件の存する名称コンブロンビルは、RC鉄骨造四階建のマンション(以下「本件マンション」という。)であり、本件物件は、本件マンションの四階にあり、専有面積53.05平方メートルで、その間取は、三DK(洋室七畳、5.5畳、和室六畳)である。

5  右5.5畳の洋室は、本件売買契約締結以前において、ルーフバルコニーを利用して増築されたものであるところ(これを、以下「本件増築部分」という。)、本件増築部分は、木造であり、建築基準法二七条一項一号、別表第一(二)所定の耐火建築物の規定に違反するめのである。

6  石渡は、平成五年二月九日死亡し、子である被告誠及び被告智が同人の法律上の地位を法定相続分各二分の一の割合で相続承継した。

(1ないし5の各事実は各当事者間に争いがなく、6の事実については、原告と被告大同商事との間で争いがなく、被告中央興産との関係では弁論の全趣旨によりこれを認める。)

三  主たる争点

1  原告は、本件売買契約当時、本件増築部分が木造で違法建築物であることを知らなかったとして、このことをもって本件売買契約締結についての原告の意思表示に要素の錯誤があったといえるか。

2  錯誤があったとして、原告に重大な過失があったか。

3  被告らが本件増築部分についてその構造や違法建築物であることを告げなかったとして、この点で被告らに詐欺が認められるか。

4  また、被告らが本件増築部分についてその構造や違法建築物であることを敢えて告げず、あるいは告げなかったとして、この点で被告らに不法行為が認められるか。

5  原告の損害の有無及びその額

6  過失相殺

四  争点についての当事者の主張は次のとおりである。

(原告)

1 主位的請求関係

(一) 本件売買契約の錯誤無効

原告は、本件物件がRC鉄骨造の建物であると誤信して本件売買契約を締結したものであり、本件増築部分が木造でしかもこれが建築基準法に違反する違法建築物であることは本件売買契約締結後に判明したものであるが、本件違法な増築部分は、三DKである本件物件の一室で割合は大きいうえ不可分一体をなしている建物の一部をなしているもので、その瑕疵の程度は重大であるところ、原告のみならず一般人においても、売買契約締結当時、もし、本件物件が右違法建築部分を含んでいることを知っていたならば、右のような汚点のある本件物件を購入するはずがないし、ましてや、原告は、住宅のいわゆる一次取得者であり、これからマンションを転売して徐々にグレードアップしていく段階の者であるから、違法建築部分という汚点があるマンションでは転売できず、あるいは困難である本件物件を購入したはずがなく、よって、原告の本件売買契約締結についての意思表示は要素の錯誤により無効である。

(二) 本件売買契約の詐欺による取消

石渡、同中央興産及び同大同商事は、本件売買契約締結に際して、いずれも本件物件に本件違法な増築部分が存することを知りながら、このことを原告に告げず、原告をして本件物件はRC鉄骨造で違法建築部分のないものと誤信させたうえ、本件売買契約を締結させたものである。よって、原告は被告らに対し、本訴状の送達をもって、本件売買契約における買受けの意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(三) 被告らの不法行為(責任原因)

(1) 被告中央興産は、買主である原告の仲介人として原告に対し本件違法増築部分の存在について告知すべき義務があるのに、違法にこれを怠った。

(2) 石渡は、自ら本件増築部分の建築に関与し、本件増築部分が違法建築物であることを知っていたものであるが、売主本人及び被告誠及び同智の代理人として平成三年七月一七日の本件売買契約締結の場に臨んでいたのであるから、当然、原告に対し、本件違法増築部分の存在について告知すべきであったのに、これをしなかった。

(3) 被告大同商事は、仲介業者として、本件違法建築部分の存在を明示した本件物件の販売図面等を作成すべきであるのに、本件違法増築部分の表示を欠く本件物件の現況を反映しない本件物件の販売図面と本件売買契約書の作成したうえ、本件売買契約時及びそれ以前の現場説明においても本件違法増築部分の存在について告知しなかった。

(四) 原告の損害

(1) 被告中央興産に対する既払の仲介手数料九一万一五四〇円

(2) 本件物件の所有権移転登記手続に伴う登録免許税、印紙税及び司法書士報酬金合計四三万七〇〇〇円

(3) 本件物件のリフォーム代金四二万八四八〇円

(4) ボイラー修繕代金四万七八九五円

(5) 下水道工事費一六万九八〇〇円

以上合計 一九九万四七一五円

2 予備的請求関係

(一) 仮に、錯誤無効、詐欺取消しが認められないとしても、前記1の(三)のとおり被告らには不法行為責任がある。

(二) 損害

合計二一一六万一五四〇円

(1) 原告は、本件物件を代金二九八〇円にて売りに出し、平成四年六月に買手がついたが、本件違法建築部分の存在のために成約に至らなかったもので、本件違法建築部分が存しなければ、原告は右二九八〇万円を取得することができたところこれに対し、本件物件の時価は二〇五五万円であるから、原告は、本件違法建築部分の存在により右二九八〇万円と二〇五五万円の差額である九二五万円の損害を受けた。

(2) 違法建築部分の除去費用等

本件違法建築部分を除去し、代替家屋として木造のサンルームを造るとすると、一〇〇〇万円を要する。

(3) 被告中央興産に対する既払の仲介手数料九一万一五四〇円

(4) 原告が本件により被った精神的苦痛に対する慰謝料一〇〇万円

3 よって、原告は被告らに対し連帯して、主位的請求として、不当利得返還請求権及び不法行為による損害賠償請求権に基づき、二九四九万四七一五円及び最終の費用支出日以降である平成四年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的請求として、不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記損害合計の内金一五〇〇万円及びこれに対する不法行為日である平成三年一一月一七日から支払済みまで右年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告中央興産)

1 本件増築部分は、外観上も木造の増築であることが一見して明らかであるが、被告は、本件売買契約締結前、原告との数度の本件物件見分の際、原告に対し本件増築部分の構造が木造であり、違法建築物であることを説明し、さらに、本件売買契約締結の際の重要事項説明において、本件増築部分について同様の説明をしているものであり、原告は、本件増築部分が木造であり違法建築物であることを十分知ったうえで本件売買契約を締結した。

2 仮に、原告において本件増築部分が違法建築物であることを認識せずに本件売買契約を締結したとしても、本件売買代金額は、本件増築部分が違法建築物であることを考慮して予め低めに設定されていたもの(本件増築部分は実質的には代金に入っていない)であること、本件違法な増築部分は、三DKの間取である本件物件の一部屋に過ぎないこと、違法建築物であっても本件増築部分はその使用上格別問題がないこと、それに、本件程度の違法建築部分が存しても転売することは可能であることなどからして、本件売買契約の目的を達することができなくなるほどの重要な点に錯誤があったとは到底いえず、また、本件増築部分が違法建築物ではないと誤解して本件売買契約の申入れをしたのは、単なる動機の錯誤に過ぎないし、右動機は表示されていないから、要素の錯誤に当たらない。

3 また仮に、本件増築部分が違法建築物であることを知らなかった点において原告に錯誤があったとしても、原告は少なくとも本件増築部分が木造で違法建築物であることを容易に知ることができたものであるから、右錯誤について原告には重大な過失がある。

4 被告らには、本件増築部分が違法建築物であることを敢えて秘し、原告をして適法な建築物であると誤信させるなどの詐欺の故意と欺罔行為がないから、詐欺による取消しの主張は失当である。

5 仮に、原告において本件増築部分が違法建築物であると知らず、被告中央興産及び同大同商事が違法建築物だあることを告知していなかったとしても、前記建築基準法二七条一項一号違反の建築物であるか否かの点については、同被告らが遵守すべき宅地建物取引業法で規定された重要事項説明の対象とはなっておらず、したがって、右の点について被告らには告知義務はなく、そうである以上、同被告らが違法建築物であることを告知しなかったからといって、これをもって違法行為とすることはできない。

6 仮に、同被告に不法行為が成立するとした場合、原告は、本件増築部分が違法建築物であるとまで認識していなかったにしても、違法建築の基礎事実を認識していたものであるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

7 予備的相殺の抗弁

もし仮に、原告に売買代金相当額とこれに対する遅延損害金の請求が認容されるのであれば、原告は本件売買契約締結時から現在に至るまで本件物件を使用収益して賃料相当額を利得しており、その額は一か月一五万円を下らないものというべきであるから、右賃料相当額の不当利得返還請求債権をもって右遅延損害金債権と相殺する。

(被告大同商事、同淺場、同小田)

前記被告中央興産の主張1なし5と同旨

なお、仮に原告に錯誤が認められるにしても、本件増築部分は本件物件中の他の適法な建築部分とは分離可能なものであるから、錯誤無効となるのは、本件売買契約全体ではなく、その中の本件増築部分に関する部分に限定されるものというべきであるところ、この場合、本件売買代金には本件増築部分の価格は含まれていないから、被告らに何らの利得も発生しないし、原告にも損失はない。

第三  争点に対する判断

一  本件売買契約の経緯等について

前記争いのない事実に証拠(甲一、二の一、二、同三、一〇ないし一七、一九ないし二一、二二の一ないし一〇、同二三、乙一、三、六、丙四ないし七、証人松尾光一郎、同伊藤俊男、原告本人、被告中央興産代表者)によると、次の事実が認められる。

1  本件マンションは、昭和五五年八月ころ新築で、石渡及び同人の元夫の淺場賢治は、新築間もなく二DKの間取であった本件物件を共同で購入し、右購入後程なく本件増築部分を建築して間取を三DKとした。ところで、右賢治は平成三年七月七日死亡したため、石渡及び子供の被告誠、同智は、本件物件を売却することにし、同年八月末ころ被告大同商事に売却の仲介を依頼した。

2  前記仲介の依頼を受けて大同商事の従業員伊藤俊男は、本件物件を見分したところ、本件物件に本件増築部分があることが分かったが、本件増築部分が木造のようで建築基準法上問題があるのではないかと思い、石渡に右増築に関する図面を提出して貰うとともに建築確認がとれているか否か藤沢市役所建築指導課に尋ねたが古いことで不明とのことであったため、右の点はそれ以上追求せず不問として不動産情報センターに右売却の情報を流すとともに、建物の構造及び規模をRC鉄骨造、四階建四階部分、三DK、専有面積53.05平方メートル、価格二七五〇万円等とする広告を作成してこれを流した。そして、被告中央興産は、右被告大同商事の売却情報を基に同様の広告(乙一)と販売図面(甲一)を作成した。

3  ところで、原告夫妻は、当時藤沢市辻堂に所在のアパート住まいをしていて湘南海岸に近いマンションの購入を希望し、被告中央興産に売り物件の案内をしてもらっていたが、原告の購入希望条件である三DKで価格が三〇〇〇万円未満にかなう手頃な物件はなかったため、被告中央興産では原告夫妻に本件物件の販売図面(甲一)を渡して同年一〇月中旬ころ本件マンションの現地案内をした。

4  原告夫妻は、本件物件の価格、間取が購入希望条件に合う上、築後年数もさほど経過しておらず、最寄り駅である小田急江ノ島線の善行駅から徒歩で三分と交通至便であることから購入を考え、被告中央興産に本件物件の内覧を申し出た。そこで、原告夫妻は、被告中央興産の従業員であった松尾光一郎の案内で、同年一一月四日に本件物件内見をし、その結果本件物件を購入することに決定して買付証明を発行し、続いて同月一〇日にも内見し、そしてそのころ、内装の不十分さを理由に同被告に対し売買代金の値引きを申し入れ、交渉の結果、売買代金額を三〇万円減額した二七五〇万円とすることとなった。

5  ところで、同年一〇月末ころ被告中央興産から本件物件の購入希望者があることの連絡を受けた売主らの仲介人である被告大同商事は、本件増築部分が未登記のままであると買主が銀行から購入資金の融資を受ける際問題があると考え、加えて、その他後日の問題の発生防止も考慮し、売主らに連絡して本件物件の登記簿の表題部について変更登記の申請手続をさせ、その結果、同年一一月一日付けをもって、右表題部中一棟の建物の表示部分の記載が、構造につき、それまでの「鉄骨造陸屋根四階建」から「木鉄骨造・陸屋根亜鉛メッキ鋼板葺四階建」に、床面積中四階部分につき「94.86平方メートル」から「108.73平方メートル」に各変更され、原因及びその日付が「昭和五六年一二月二〇日変更、増築」と、また、専有部分の建物の表示部分の記載は、構造につき「鉄骨造一階建」から「木・鉄骨造一階建」に、床面積につき「四階部分40.04平方メートル」から「四階部分53.47平方メートル」に各変更され、原因及びその日付が「昭和五六年一二月二〇日変更、増築」とそれぞれ登記された。そこで、被告大同商事は、同中央興産に対し、右変更登記後の登記簿謄本を送付するとともに、売主らから入手した本件増築に関する図面(丙六、七)を送付して本件物件には木造の増築部分があることを知らせ、そして、被告中央興産は、原告に対し、右新たな登記簿謄本を渡した。

6  そこで被告大同商事は、売買契約締結に向けて本件売買契約書の作成に取りかかり、他方、被告中央興産は、右同大同商事からの本件増築部分についての情報を基に本件物件に関する重要事項説明書(甲二の二)を作成したが、これには、本件物件の構造につき「木鉄骨造」、建築時期につき「増築昭和五六年一二月ころ」と各記載した。そして、同年一一月一七日、被告中央興産の事務所において、原告夫妻、前記松尾、被告中央興産の代表者で宅地建物取引主任者の熊田誠、売主の石渡、それにその仲介人である被告大同商事から従業員の伊藤俊男が参集して、本件売買契約の締結行為がなされた。その際、本件売買契約の内容や本件物件の説明は、専ら右熊田がなしたが、熊田は、本件物件の説明については、前記本件増築に関する書類を示して右増築説明をしたほか、右重要事項説明書を逐一朗読するかたちで行った。これに対し原告からは本件物件につき何らの質問も出ず、本件売買契約は締結されて、原告は、手付金二〇〇万円を支払い、被告中央興産から本件売買契約書類や重要事項説明書、その他関係書類の交付を受けて終わった。

7  原告は、右売買契約締結後、RC造四階建の本件マンションに木造の本件増築部分があることが気になり出し、その日のうちに不動産業を営む友人に電話で相談したところ、木造部分があること自体だけでは問題とならないし、木造の増築部分があることを前提にして契約が結ばれているのであるから、契約を続行するか、手付金を放棄するしかない旨の助言を受けたが、手付金二〇〇万円を放棄するわけにはいかないと思い、残売買代金を完済して本件物件を取得することにし、そこで、売買契約前から予定していた本件物件のリフォームを実施することにして、被告中央興産知り合いの大工進藤にその見積をしてもらったが、見積が高かったことから同年一一月末ころ他の業者に依頼してリフォーム工事をしてもらい、その後の同年一二月一三日、本件物件に抵当権を設定して労働金庫から一五〇〇万円を借り入れ、本件売買残代金と被告中央興産に対する仲介手数料残金を支払った。

8  原告は、右のとおり本件物件を購入したものの、本件増築部分があることが気に入らず、転売してより良いマンションを購入しようと考え、平成四年六月末ころ、住友不動産販売株式会社藤沢営業センターに売却価格を二九八〇万円として本件物件売却の仲介を依頼し、右住友不動産販売では同年七月に入って右売買の広告を出したところ、間もなく購入希望者が現われたが、住友不動産販売では、本件増築部分が違法建築であり、後々買主との間で紛争が生じることをおそれて、右仲介することを取りやめた。

9  原告は、平成六年に入ってから神奈川県庁に本件増築部分が違法建築物であることなどを理由に本件売買の仲介に関する紛争処理を申し出、次いで原告代理人弁護士に本件について法律相談をし、これを受けた同弁護士は、被告中央興産及び同大同商事に対し、同年九月一日付け書面をもって本件違法建築物についての紛争解決に関する話し合いを申し入れた。

なお、証人松尾及び同伊藤は、原告夫妻が本件物件の内覧をしたのは前記一一月四日と同月一〇日のほか同年一〇月二七日もある旨供述し、丙八号証(松尾の陳述書)中にも同様の記載部分が存するところ、証拠(乙三、証人伊藤)によると、被告大同商事の伊藤は被告中央興産からの内覧希望者がいるので本件物件の鍵を貸してもらいたい旨の申出を受けて同年一〇月二七日午前一〇時ころ本件物件の鍵を開けていることが認められるが、しかしながら、甲一九によれば、原告夫妻は、同月二六日から二七日にかけて友人とキャンプ旅行中であったことが認められ、したがって、同月二七日に原告夫妻が本件物件の内覧をしたとは考え難く、よって、前記各証人の証言中同月二七日に原告夫妻が本件物件の内覧をした旨の供述部分及び前掲乙号証中の記載部分は採用できない。また、証人松尾は、本件売買契約締結前に一度、大工の進藤を同道して本件物件を見分し、その際、原告立会いのうえ本件増築部分の構造や耐久性について右進藤に検分してもらった旨供述するが、前掲甲一五(原告のダイアリー)及び乙三(前記伊藤の日誌)の各記載並びに原告本人尋問の結果に照らして採用できない。

二  錯誤無効の主張について

1  本件増築部分についての原告の認識内容について

(一) 前述のとおり本件増築部分はルーフバルコニーを利用して増築されたものであるが、証拠(甲一〇、乙五、証人松尾光一郎、同伊藤俊男)によれば、本件増築部分は右ルーフバルコニーに乗せるようにして本体部分に接続する形で築造され、その外壁もサイデイングが施されていて、本件物件であるマンション本体の外壁とは材質も色も異なり、その外観から本件増築部分がマンション本体とは別に築造されたものであることが判然としており、また、本件増築部分に付けられている玄関ドアは他の各戸の玄関ドアと異なるものであり、本件物件の内部を見ても、本件増築部分の床とそれ以外の床との間には段差があり、さらに、本件増築部分と本体部分との境には、「非常口」と表示された非常灯が設置されたままであって、これらのことからだけでもさほどの注意なくして本件増築部分が増築されたものであることが判明する状況にあったことが認められ、加えて、前記認定のとおり原告は本件売買契約締結前少なくとも二回、前記松尾の案内で広くない本件物件の内部をつぶさに見分しているうえ、前記表題部の記載が変更された本件物件の登記簿謄本を事前に見ているものであり(なお、原告は、右登記簿謄本の乙区欄の記載が気になり、表題部の記載は目に入らなかった旨述べているが、表題部は表面に記載され、しかも変更登記によりその記載が不体裁となっていたのであるから、目に入らなかったとは考え難い。)、以上のことからして、原告は、本件売買契約締結における重要事項の説明前において、その詳細については知らなかったとしても、本件増築部分が存在することと、これが木造であることをある程度認識していたものと認めるのが相当である。加えて、前記認定のとおり、原告は、前記熊沢の本件増築部分についての説明を含む重要事項説明に対し何らの質問もせず、その後の不動産業を営む友人に助言を求めた際の右友人からの、木造の増築部分があることを前提にして契約しているのであるから契約を続行するしかないとの説明を受け入れ、その後、被告中央興産はもとより売主側に対しても何らの苦情や代金減額の申入れもすることなく本件売買契約を履行しているが、右原告の行動は、原告が木造の本件増築部分の存在を認識したうえで本件売買契約を締結したものとであることを裏付けるものであるということができる。

(二) 次に、原告は、本件増築部分が違法建築物であることの説明は一切受けていない旨述べ、これに対し、証人伊藤俊男及び被告中央興産代表者は、違法建築物である趣旨のことを説明した旨各供述するが、右証人伊藤の供述は伝聞に基づく不確かなものであるし、被告中央興産代表者の供述もあやふやなもので、どこまで正確に違法建築物であると説明したのか不明というほかないもので、違法建築物であることを説明したとする右証人及び代表者の各供述はそれ自体にわかに受け入れ難い。

ところで、被告らは、四階建のRC構造マンションにおいて木造建築部分は違法建築ではないかと疑うのが通常である旨主張するところ、一般的に右のようなことがいえるとしても、本件売買においては、前記のとおり本件増築部分について変更登記がなされており、また、売買の仲介を依頼した被告中央興産から本件増築部分が違法建築物であるとの明快な説明がなかった(明快な説明があったことを認める証拠はない。)ものである以上、原告において、本件増築部分に何らかの問題があるのではないか程度の意識は抱いたにしても、宅地建物取引の専門業者であり自己が依頼した同被告が違法建築物であると説明しない限り、購入しようとする本件物件にまさか違法建築部分が存するとは思いを致さなかったとみるのが自然であり、もし、原告において、本件増築部分が違法建築物であると認識していたならば、本件売買契約締結の取りやめ、あるいは売買代金の減額申入れなど何らかの行動に当然出たものと推測されるところ、原告は右のような行動に一切出ていないものであり、右のことからしても、原告は、本件増築部分が違法建築であることまでは認識していなかったものと認めるのが相当である。

2  錯誤の成否について

(一) 前記検討したとおり、原告は、本件売買契約締結時において、本件物件には木造の本件増築部分が存することは認識していたもののこれが違法建築物であることまでははっきりとは認識していなかったものである。したがって、原告において、本件増築部分が違法建築物であることを知らなかったこと、換言すれば、本件物件には違法建築部分が存するにもかかわらず、本件物件は建築基準法上問題のない建物であると認識していた点で、本件売買契約に関する意思表示に錯誤があったか否かが問題となる。

(二) ところで、売買目的物の性状について買主の認識と客観的な性状との間に齟齬があり、そのため売買契約が錯誤により無効というためには、客観的にみて、買主において売買の目的を達することができないほどに右齟齬が重大で、公平の観点からしてそのまま売買契約を有効とすることが相当でないといえる程度のものであることが必要であるというべきで、右の程度に至らないものについては、売主に対して瑕疵担保責任を追求することができるにしても、売買契約自体を無効とすることはできない。

そこで、これを本件についてみるに、まず、本件違法建築部分は、三DKである本件物件の一室で、違法部分が些少なものであるとはいえず、また、マンションの売買は、土地付一戸建建物の売買の場合に比して、はるかに建物の性状如何が重要であることは明らかである。しかし、原告は、木造による本件増築部分が存在することを認識のうえで本件売買契約を締結していること、また、原告は、他のマンションと較べると、間取や専有面積の広さと交通の至便さに比して本件物件の価額が安いと判断して本件物件の購入を決めているし、本件当時のマンション価額の市場相場からすると、本件物件はかなり割安なものであったこと(乙一、証人松尾光一郎、なお、安いから違法建築部分があって当然であるというわけでは勿論ないが)、本件増築部分は、耐火構造ではない点で違法建築ではあるが、耐久性や使用上に問題はなく、本件物件を三DKの間取の住居として引き続き使用することができること(本件増築部分が違法建築物であるからといってこれを取り壊さなければならない危険性は今のところない。原告本人)、本件増築部分は、専有部分であるルーフバルコニーを利用して、その上に本体に接続するようにして築造されたもので、本体部分を損壊することなく本件増築部分を解体して右ルーフバルコニーを他の用途に有効利用することも比較的容易であると考えられること、それに、違法建築部分がない場合に比べ転売価額面で不利益を受けることになろうが、本件程度の違法建築部分があるからといって本件物件を転売することができないということはいえず、(なお、前記認定のとおり原告は本件物件を転売しようとしたものの成約に至らなかったことがあるが、不成立の原因が専ら本件違法建築部分の存在のためであるのか明らかとはいえないし、本件違法建築部分程度の瑕疵があるからといって、一般的にいって転売ができないとは考え難い。)、したがって、本件程度の違法建築部分があることが分かっていれば、通常これを購入しようとする者はいないとはいえないこと、以上のような諸事情に照らして考察すると、本件違法建築部分の存在により本件物件を転売するうえで不利な面があることは否めず、この点で、原告の将来における買換えによる住居のグレードアップの目論見は挫折させられる結果となったが(もっとも、転売目的で本件物件を購入することが本件売買契約において表明されていたわけではなく、現在転売が困難としても、それは、バブル崩壊による中古マンションの下落によるところが大きいものと思われる。)、本件違法建築部分の存在が本件売買契約自体を無効としなければならないほど重大なものとは未だいえない。

したがって、本件違法建築部分についての原告の認識に齟齬があったにしても、これをもって本件売買契約を錯誤無効とすることはできない。

三  詐欺による取消しについて

既に認定説示したとおり、被告中央興産は、本件売買契約締結に際して、本件増築部分が建築基準法に違反する違法建築物であることについては説明していないが、本件物件には木造の本件増築部分が存することを一応説明しているものであり、また、本件増築部分が違法建築物であるとまでは説明しなかったのは、証拠(被告代表者)によれば、四階建の本件マンションに木造部分があること自体に問題はあると認識してはいるが、違法性の内容、程度について具体的に確知していた訳ではなく、それに、買主に木造の増築部分があることを告げておけば常識的にみて買主においてもある程度問題があることを認識し得るであろうしそれで足りるものと考えてのことであることが窺われ、被告中央興産において本件増築部分の違法建築物性を十分に認識しながら殊更にこれを秘し、違法建築物の存在を隠してあえて本件売買契約締結の仲介をしたとまで認める証拠はない。また、本件売買契約締結の席に臨んだ売主である石渡において、本件増築部分が違法建築物であることと、このことを買主に告知しなければならないと認識していたことを認める証拠はなく、さらに、売主らの仲介人である大同商事についても、前述のとおり、本件増築部分に問題があることを認識し、これが問題とならないように本件物件の登記簿の変更登記申請手続をし、被告中央興産に対して注意を促しているものであって、被告大同商事において、違法建築物の存在を殊更隠して本件売買契約締結の仲介をしたことを認める証拠はない。

そして、他に、本件売買契約の締結について、被告らに詐欺があったことを認める証拠はない。

四  不法行為の成否について

1  被告中央興産について

被告中央興産は原告に対し、前記変更後の登記簿謄本を予め交付し、そして、本件売買契約当日、前記熊田は、原告に対して、本件増築部分に関する前記書類を示したうえ本件物件には木造の増築部分があることを説明しているものであるが、本件増築部分が違法建築物であるとまで説明したとまでは認められないこと、前述のとおりである。

ところで、同被告は、四階建のRC構造マンションに木造部分が存するのは不自然で、同部分は違法建築でないかと疑うのが通常であり、したがって、本件増築部分が違法建築物であるとまで敢えて説明する必要はないし、また、宅地建物取引業法でもそこまでの説明は義務付けられていない旨述べる。

なるほど、四階建のRC構造のマンションにある木造建築部分は違法建築であると疑うのが通常の常識であるといえるかもしれないし、また、建築基準法二七条所定の耐火建築物に関する事項は直接的には宅地建物取引業法所定の重要事項説明の対象とはされていない(平成五年法律第八九号による改正前の同法三五条、同法施行令三条)ものであるが、しかし、まず、同法三五条所定の重要事項説明の対象とされている事項は、制限列挙されたものではなく、右列挙された事項以外の事項でも当該取引において重要であると認められる事項についてはこれの説明を義務付けているものと解するのが相当であり、そうすると、本件売買は、マンションの売買であり、土地付一戸建建物の売買の場合とは異なって、違法建築か否か等、売買対象物である建物自体の性状如何が売買取引における最重要事項の一つであることは明らかであり、したがって、宅地建物取引業者としては、当該建物が建築基準法二七条所定の耐火建築物の要請を満たしているか否かについての調査義務まではないにしても、少なくとも違法建築の存することが判明している限り、仲介依頼者である買主に対し、重要事項説明において違法建築の存することを告知するのが当然であり、四階建マンションの木造部分は違法建築であると疑うのが常識であるとしても、そのことだけをもって、右告知義務を免れることはできないというべきである。しかるところ、被告中央興産は、本件増築部分が違法建築物であることを認識しながら、本件増築部分が違法建築物であるとの認識に欠けている原告に対し右告知をしなかったものであるから、この点で同被告は、その不法行為責任を免れない。

2  被告大同商事について

被告大同商事は、本件物件に本件増築部分が存することを明示しない販売図面を作成、これを流通させ、これに基づき本件売買の勧誘がなされていること、また、同被告の従業員は、売主側の仲介人として本件売買契約締結の場に臨席していながら、原告に対し本件増築部分について何らの説明をしていないこと前述のとおりである。しかしながら、同被告は、本件増築部分の存在に気付き、後日の紛争発生を防止するため本件物件の登記簿の表題部を現状の「木・鉄骨造」に変更登記させたうえ、本件増築に関する書類とともに右変更後の登記簿を買主の仲介人である被告中央興産に送付し、併せて本件物件には木造の増築部分があり、これには違法建築の疑いがあることを告げ、そして、右登記簿は本件売買契約締結前に同被告の手を通じて原告に渡されていたものであること、本件売買契約締結前における原告に対する本件物件の事前説明は主に被告中央興産側でなし、本件売買契約締結行為は、被告中央興産の事務所でなされ、宅地建物取引主任者の資格を有する同被告の代表者である熊田において被告大同商事が送付した本件増築部分に関する前記書類を参考のうえ本件物件について重要事項の説明をしているものであること前記のとおりであり、以上の経過に鑑みれば、右重要事項の説明において、被告中央興産が、殊更に本件増築部分が違法建築物であることを秘し、このことを被告大同商事も知っていたなどの特段の事情のない限り、被告大同商事において、買主である原告に対し本件増築部分の性状等について改めて告知、説明する義務はないものというべきであるところ、右特段の事情を認める証拠はない。そうすると、同被告が原告に対し本件増築部分が違法建築物であることを告げなかったからといって、このことをもって違法な行為とすることはできず、他に、同被告に対し不法行為責任を認める証拠はない。

3  その余の被告らについて

前述のとおり、石渡及びその元夫は共同して本件物件を購入した後違法建築物である本件増築部分を築造しているものであり、そして、右石渡は、売主として本件売買契約締結の場に臨んでいたものであるが、本件売買契約締結当時、本件増築部分の存在及びそれが木造であることは、売買契約当事者及び各仲介人が共通に認識するところであったものであるうえ、売買契約締結の場には売買契約当事者双方の宅地建物仲介の専門業者である各仲介人が立ち会い、売買契約締結に先立ち右仲介人がその業務として買主である原告に対し本件物件に関する重要事項等の説明をしているのであるから、このような場合、違法建築物を築造したものであるからといって、売主である石渡に本件増築物が違法建築物であることを原告に対しこと改めて告知しなければならない義務があったとは考えられず、したがって、石渡の承継人であり売主でもある被告淺場及び同小田が売主として瑕疵担保責任を負うことはあっても(もっとも除斥期間の経過により右責任を追求することは不可能であろうが)、同被告に対し右告知義務違反を理由に不法行為責任を追求することはできないといわざるを得ない。

五  不法行為に基づく損害賠償請求について

1  主位的請求関係

原告は、錯誤もしくは詐欺取消しによる本件売買契約解消を前提として、本件売買代金相当額、仲介手数料相当額、リフォーム代金、その他本件売買契約締結に関して出捐した諸費用を損害として損害賠償請求をするが、前述のとおり本件売買契約は有効に成立しているものであるから、損害賠償についての主位的請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

2  予備的請求関係

(一) 転売代金相当額と本件物件の現価との差額相当額九二五万円

なるほど、前記認定のとおり原告は平成四年七月ころ本件物件を二九八〇万円にて売却し得た可能性があったところ、その後の不動産価額の下落、就中、中古マンションの著しい価額下落のあったことは当裁判所にも顕著な事実で、右一般的な価額下落傾向からして本件物件の市場価額も大幅に下落しているであろうことは推測するに難くなく、もし、右売買が成立していたならば、原告は、本件物件の価額下落による損失を免れたうえ、多少なりとも転売利益を得られたであろう。しかしながら、原告の主張する損害は、瑕疵のない履行がなされたならば買主が得たであろう利益(いわゆる履行利益)ないし避け得たであろう損失についてのものであるところ、前述のとおり本件違法建築部分が存しても本件物件を適法に売却することが十分可能であり、右二九八〇万円での売買が不成立となったのが本件違法建築部分の存在のみに起因するものか否か必ずしも明確ではないし、本件物件の価額下落もバブルの崩壊による中古マンション価額の低迷によるところが大であることが明らかであるうえ、そもそも前述のとおり本件売買契約は有効に成立し、その履行は終了し、また、解除されたわけのものでもないから、本件売買の仲介業者である被告中央興産及び同大同商事に対し、前記不法行為と相当因果関係のある損害として、転売代金相当額と本件物件の現価との差額相当額を損害賠償請求することはできないといわざるを得ない。

(二) 違法建築部分の除去費用等

前記のとおり、本件増築部分は、その使用を継続するについて特に問題はなく、また、本件物件を転売するについても本件増築部分を除去しなければ転売することができないというほどのものではないもので、敢えて本件増築部分を除去しなければならないものとはいえず、したがって、本件増築部分の除去費用等をもって本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(三) 仲介手数料

本件売買契約は有効に成立し、その履行も終了しているものであるから、被告中央興産の仲介行為につき違法な点があるからといって、原告が被告中央興産に支払った本件仲介手数料をもって本件不法行為と相当因果関係のある損害とすることはできない。

(四) 慰謝料

前記認定の事実及び証拠(原告本人)によれば、原告が折角購入したマイホームに違法建築部分があることが判り、これを転売しようとしても思うに任されず、当分の間欠陥住宅に居住し続けなければならなくなって、精神的に多大の打撃を受けたことが窺われるが、他方、原告には、注意を払いさえすればさして困難なく本件増築部分が違法建築であることを理解することができたにもかかわらず、不動産業を営む友人の助言に安易に乗って本件売買契約を遂行したうえ、売主に瑕疵担保責任を追求するなど早期に本件問題を解決しようとする努力を怠った落ち度が窺われ、その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、原告の受けた精神的損害に対する慰謝料としては、五〇万円が相当である。

六  結語

以上のとおりとすると、原告の本訴各請求は、そのうち本件売買契約の錯誤無効ないし詐欺による取消しを前提とする主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求のうち、被告中央興産に対し損害賠償金五〇万円及びこれに対する不法行為日である平成三年一一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、被告大同商事、同誠及び同智に対する請求並びに被告中央興産に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官千川原則雄)

別紙物件目録<省略>

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